経済・文化評論室

エコノミストであり、物語を愛するヲタクでもある。

宇宙よりも遠い場所

Crunchyrollで宇宙よりも遠い場所を一気に視ました。結論から言うと、良いアニメを視たな…って感じです。この物語を一言でいうと、「女子高生が南極に行って帰ってくる物語」です。この、行って帰ってくる物語というのはあらゆる物語の構造の中でも基本中の基本で、王道とも呼べるものです。この、極めてシンプルかつ王道の物語を丁寧に描いたのが当作品です。

 

まず最初に思った良い点は、主人公たちが抱える葛藤や問題に違和感が少ない点。一般に、登場人物のトラウマや葛藤を何らかの方法で解消していく、というのは物語のごく基本的な構造ですが、下手をするととってつけたようなトラウマが描かれてしまったり、または登場人物の考え方の一貫性が欠けてしまったりと、これを自然にこなせている物語は案外少ないものです(具体的な作品名は挙げませんが…)。一方でこのアニメでは、登場人物たちの葛藤は説得力がありますし、多かれ少なかれ共感できるものばかりです。新しいことをしようとしても失敗を恐れて出来ない玉木マリ。母親を失うという大きな問題から一歩踏み出せずにいる小淵沢報瀬(変換できない)。集団での人間関係に失望している三宅日向。友人関係というものを解せずにいる白石結月。また、全部列挙はしませんが、この4人以外のキャラも良いです。例えば、主人公の幼馴染の高橋めぐみは、自分に依存していると思っていた玉木マリが新しい一歩を踏み出そうとすることに苛立つわけですが、この心境も個人的にはとても共感できるものです。

 

次に良いと思った点は、視聴者を泣かせるための演出にこだわっているという点です。もしかすると泣きの演出が過剰だという向きもあるかもしれませんが、個人的にこの作品の演出はギリギリ臭くなり過ぎない良いラインをついてると思いました。人によって泣きポイントは様々かと思います。この作品は玉木マリをはじめとして登場人物たちが良く泣くので、つられて泣いてしまう人も多いでしょう。ただ、個人的にはそれよりも、彼らの考え方が動いた瞬間、別の言葉で言えばトラウマや囚われていたことから少し踏み出せた瞬間に泣かされてしまいました。これも、先ほど述べた通り彼らの葛藤に説得力があるからです。具体的にシーンを一つを挙げるとすれば、南極行きの船で最初に主人公たち4人が挨拶するときの、小淵沢報瀬の挨拶です。母親の喪失というのは当人にとって非常に影響の大きい問題であり、3年たとうが何年たとうが乗り越えられる様なものではありません。ましてや母を失った地である南極行きの船で、報瀬が前を向くことが出来ないのも仕方のないことです。しかし、出会ったかけがえのない親友たちに背中を押され、前を向いてスピーチをする報瀬。ともすれば、この時点ではこれはまだ単なる虚勢でしかなく、ある意味このスピーチは悲壮で痛々しくもあります。でも確かにそこには、一歩踏み出そうとする意思が芽生えていて、それゆえに泣かせるシーンとなっているのです。

 

そして僕が何より良いと思ったのが、劇伴が最高だという点です。これはずるいというかえげつない。曲自体も良いし、曲を使った演出も良い。ていうか、物語の終盤で流れるアコギ主体のあの歌モノ。あれがずる過ぎる。だいたいあの曲が入ってくる演出で泣かされたようなものでしょ?

 

このアニメには凄い力を持ったヒーローもヒロインもいません。年相応っぽい高校生4人がいるだけです。彼らはそれぞれ何か欠落していますが、お互いそれを補い合うことが出来ます。こういう、基本的なことをきっちりと丁寧に描き切ってる良いアニメです。

とりあえず未視聴の方には強くお勧めできます。

 

以上