経済・文化評論室

エコノミストであり、物語を愛するヲタクでもある。

Dancer in the Dark

あのビョークが主演と劇伴を務めるDancer in the Dark。昨日視ました。予備知識ゼロでみたのですが不意打ちのとんでもない鬱映画でしたね。えぇ。たぶん印象は分かれると思う映画ですが、個人的にはこういう暗い話は嫌いじゃないし、陰鬱なプロットと不気味な明るさのミュージカルの組み合わせが妙に印象に残る作品でした。ネタバレどうこう言うような映画でもないので、カジュアルにネタバレ込みで感想メモしときます。

 

大づかみに完全にネタバレ込みで流れを説明すると、舞台はアメリカで、弱視のチャコスロバキア(共産圏)移民の女が主人公。子供も弱視が遺伝してしまい、その手術費用を稼ぐために工場勤務をして貯金をしていたが、借金を重ねた友人にその金を奪われたあげく、やむなくその友人を殺害。そして裁判を経て最後は絞首刑で幕を閉じるという救いがたい内容となっています。

主人公は、ミュージカルが大好きで、規則的な音が聞こえてくると音楽が頭に浮かび、ミュージカルの妄想の世界に没入してしまう癖があります。たびたび挿入されるミュージカルシーンがこの映画の最大の売りの一つでしょうね。

 

以下、感想等。

個人的な解釈ですが…話の流れは救いがたい感じではありますが、真っ暗な救いがたい人生の中にも希望はある、というメッセージだと都合よく解釈したいと思います。そう思わされたのは次の3つの要素です。

1つはたびたび繰り返される白昼夢のミュージカル。これは、悪く解釈すれば単なる現実逃避でしかないわけですが…これのおかげで主人公は辛い局面を何度も精神的に乗り越えることが出来ています。特に、殺人を犯してしまった後と、死刑執行に向かうまでのミュージカルは印象に残りました。2つのシーンとも、この妄想がなければ主人公はそのまま精神崩壊しているような場面です。こんなときにもミュージカルの妄想かい!と思わず突っ込みを入れたくなってしまうシーンですが、これこそがこの主人公の特異性という本質ですよね。

2つ目は、ラストシーンで絞首刑直前に息子の手術が成功したと告げられるところ。この物語で唯一明確に救いがあるシーンです。逆にこれがないとだいぶとんでもない話になってしまいます。この映画がすごいのは、実直さが必ずしも自らの救済に繋がることはないという非情のリアリティです。主人公は、本当は友人に金をとられ、それを取り返そうとしたあげくにその友人を殺害してしまったわけですが、容疑は、彼から金をとろうとした強盗殺人となっていまいます。主人公は裁判において、「彼が最初に自分の金をとったのだ」と主張しますが、検察から「なぜ彼がお前の金をとる必要があるのか」と聞かれたときに、「それは言えない」と答えてしまいます。なぜなら、主人公はその友人から金に関する相談を受けており、彼が借金を重ねて金に困っていることは誰にも言わないとその時約束したからです。我々が心安らぐごく普通のプロットだったら、このような実直さは最終的には救済につながり、何かの拍子に主人公は罪を晴らすことが出来るでしょう。しかし、この映画ではそうはなりません。残酷にも主人公は死刑囚となります。そうした非情のリアリティの中で唯一、息子の手術の成功は、主人公の生き方をほんの少し肯定してくれている気がするのです。

3つ目は、めっちゃいいやつ2人:同僚のキャシー、女看守ブレンダの存在。上で主人公は実直と書きました、基本的にはかなり愚かな存在だと思います。友人に金をとられたのも不用心さが原因だし、目が悪いのに無理をして夜勤をしてキャシーを含む同僚に迷惑をかけるし。しかも、よかれと思って新しい弁護士を雇って再審請求をしようとしたキャシーにキレるなど、思い込みが激しく独善的です。その上しょっちゅう白昼夢を見ているのでそもそもかなりアレな人ですね。そんな人、あんまり関わりたくないような気もしますけど、キャシーとブレンダというある種ファンタジーめいためっちゃいい人が主人公のことに親身になってくれます。ファンタジーといいましたが、彼らと親しくなれる根拠は、主人公の本質である、実直さ(キャシーと対応)と息子への愛(ブレンダと対応)の2つにあるということで納得しています。

 

さて、ここまでプロットの話をしてきましたが、注目すべきはビョークの音楽でしょう。これに関しては、さすがビョーク!としかいいようがないです。特に好きな曲がいくつかあります。まずは橋の上で電車が通り過ぎるときに生じるミュージカルの曲、電車が枕木をたたく音がドラムになるわけですがそのドラムがまず良いですね。次に、友人を殺害した後のミュージカルで流れる曲。レコードのグリッチノイズが徐々にビートになっていく感じがよいのと、ひたすらリフレインされるYou just did what you had to do.のフレーズが最高に自己正当化感と現実逃避感あってよいですね。そして最後は、これはもう誰でも印象に残ると思うのですが、死刑執行直前にビョークが歌う曲です。

 

あと、個人的に印象に残ったのは、独特(?)のカメラワークです。映画詳しくないので知らないのですが、これってよくあるんでしょうか?まるでホームビデオで撮ってるかのようにゆらゆら揺れる感じが、ドキュメンタリー映画かのような独特の味わいを出していました。

 

最後に、完全に個人の意見ですが、環境音が音楽に聞こえるっていう主人公の設定は、単なる役柄上の設定というよりはむしろ……アーティストとしてのビョーク個人の「あー私全部音楽に聞こえちゃうわー、辛いわー」というイキりなのではないかと思いました。

 

以上